わが北鎌尾根、剱岳よ おちこちの山 楽山社
第2部 劔岳鑽仰(サンギョウ)
(E872)
天外の花
原田 祥子
しかと見れ 天上の沢
岩ばしる 靴の流れぞ ひろう雪来
−−”天上沢 靴流の珍”詠める。
解釈
天上沢よ珍らしい事だからよく見ておきなさい。岩ばしるの
は水ではなくて登山靴ですよ。それを又ひろい上げるなんてナ
ントットットッ雪来君は不思議な少年であることよなあ。
ひとだまや ゆうれい ようかい
ちみペロよ 淑子テントで
きかずもがな越ゆ
−−坪山夫人の北鎌尾根単独行とどめし折詠める。
長治郎 サブに追われて ヘピリ行く
足のアイゼン 指のアイゼン
−−サブリーダーの篠宮さんに追われ、長治郎雪渓登るわが姿
詠める。
平蔵や 辿りし山は けらましや
リーダーこち吹く がまんやせあさ
−−坪山リーダーに諫言せしうた。これでクビになるかも・・。
解釈
(注・今年の夏、長治郎雪渓から剱頂上を越えて平蔵の避難小
屋に着いたら先客があって狭かった。小屋は一部仕切ってあっ
て、登山者はそこを空きカンやビン等のゴミ置き場にしていた。
台風前夜の強い風雨の中、リーダーはそのゴミの上で寒さで一
睡もできず夜を明かされた。)
平蔵避難小屋のけらましいゴミの山によじ登って、雪渓から
こっち向いて吹き上げる強い風雨にさらされ、朝まで我慢され
たリーダーはホントに困った人よなあ。
人はいさ ゴミ袋胸 立ち呑みて
めぐるつまみを 山こじきとぞ
−−室堂に下山せし折詠める
解釈
立山見物の人はどう見るでしょう。相田さんは胸にゴミ袋な
んかぶら下げていらっしゃるし、私達は周りをかこんで、要ら
ないものほうり込みながら、おつまみまわして立ち呑みする姿
を、きっと山こじきに見えるでしょう。ガッハッハッ。カユイ
カユイじゃなくてユカイユカイ。
きたまかや のたうちつるに しのはまた
外またあるき 白目おえけり
解釈
「北鎌」書きし折 われ七テンバットー のたうちけるに、篠
宮さん又「剱」書きなんとや。ホントに困ったんだ。アイゼン
つけしわが足、外また歩き、未だなおりおらぬに、白目むきむ
き今やっと書き終えたことよなあ。
しのさまも うなされめけれ 槍剱
胸かきむしれ 袖しぼるらむ
解釈
篠宮さんもうなされればいいでしょ。槍が岳や剱岳に胸かき
むしればいいでしょ。書くのが苦手で、私はこんなに苦しんだ
のだから。ご自分で言い出した”僕たちの試み”を今頃後悔し
て、泣きながら袖しぼっていらっしゃることでしょう。イッ
ヒッヒ。でも私はいいわネ もう書き上げたのだから。
こちふかば においおこせよ ゴミの山
平蔵の小屋 ありやなしやと
−−山を想ひて詠める
解釈
こっち向いて風が吹いて来たら、平蔵にあったゴミの山よ教
えてほしい。私達が二度も泊った、あのくち果てそうな避難小
屋はまだあるかないかを。
へらまかしょ アヘアヘ よたる
したれども めでよたれつも しばしとどめん
解釈
よいしょ、どっこいしょ、アヘアヘヨタヨタ登って、したたる汗
を拭きながらやっと頂上に辿り着いた私。景色を愛でながらも
まだ足がヨタつくから、もうしばらくはここで眺めていよう。